この一杯
人生を変えるほどの「この一杯」〜コーヒー〜編。
家庭教師として生徒宅で頂いていた、一杯のコーヒー。
普段、家で頂く主な飲み物と言えば、緑茶とほうじ茶で
コーヒーはワンランク上の大人の味と遠くに思っていた。
指導が終わる丁度10分前に、シュンシュンと、お湯が
沸く音が聞こえる。階段を上がってくる足音と共に
立ち上るコーヒーの香。初めて目の前に差し出された際、
時計の針が夜10時を指していたため一瞬のためらいの中、
口にした。夜遅くに、カフェイン入りの飲料は飲まない
習慣であったのだ。戸惑いながらも、その香ばしい誘惑
は期待を裏切らなかった。いや、予想以上の美味しさに
虜になってしまっていた。一度口にしたら忘れられない味。
ほろ苦いだけではない。そのまろやかさ、香ばしさが完璧
なまでの深い味わいとなって、気品があるプライド高き
強い勇者の如くに振る舞い、微笑みかけるのだった。
まいった。これがコーヒーなのかと思った。この時
初めてコーヒーに恋した瞬間と言える。このトキメキは
お湯を沸かす所から始まる、いわば、心のこもった振る
舞いがあってこその味わい。家庭教師先での夜、温度と心
に見る、おもてなしの一杯からコーヒーへの道が出来た。
今では、夜遅くでもコーヒーが恋しくなってしまうほど。
今度は私が「この一杯」を入れられる人に是非なりたい。
コーヒーを入れてくださっていたお母様の笑顔は
春の陽射しのように穏やかなあたたかさに満ちていた。
☆本日の一言☆ おもてなしの心は豊かな味わいに通ず