花鳥風月

〜日々を彩る風鈴花の365日〜

守る

ミィーミィー・・・

風に乗って、か細い声が耳に届いてきた。姿は見えないけれど

子猫のような鳴き声。「はーい。」返事をしてみた。ふと足が

止まる。目の前に、後ろ脚を投げ出した格好でうずくまっている

小さな猫がいた。一目見て、その猫の異常を察知した私は急いで

自宅へと戻り、入れ物を用意した。傷ついた動物は、最後の力を

振り絞って身に迫る危険と闘おうとする性質がある。前脚で体を

支え動かない後ろ脚を引きずりながらも、懸命に逃げようと

もがいている姿が痛々しい。互いが傷つかない様に慎重に

見極めながら箱に入れてあげた。出血は見られない。

何処からか落ちたのだろうか。それとも轢かれたのだろうか。

小さい体だと感じたのに、持ってみると、ずしりと重い箱に

命の重さを感じながら、悲痛な思いでタクシーで動物病院へと

向かった。車中、「もう少しだからね」「大丈夫だからね」

と、出来る限り励ます言葉をかけ続けた。一命はとりとめた。

しかし、大腿骨骨折、骨盤骨折という、かなりの重傷だった。

こんなに小さな体で、どんなにか苦しいだろうにと思うと

いたたまれない。治療を施しても後ろ脚の歩行はまず無理でしょう

との医師の言葉。一目見た時に一抹の不安を感じてはいたけれど、

説明を受けると嘘だと信じたかった。育ち盛りで走り回りたい頃

でしょうにと、ショックを受けながらも、最後まで希望を捨てては

いけない、と思い直す。それから、お見舞いの日々が続いている。

ビクビクと怯えていた目は、日が経つにつれて穏やかになってきた。

とにかく可愛くて愛おしいと感じる。傷ついた小さな命を救い守る

という行為は容易なことではないけれど、愛を持って接していきたい

と思う。2日ほど時間が取れなくて行った2回目の面会の際、

「来てくれたんだ」と一瞬、目がパッと輝きを放ち何かを語ってきた。

そして、点滴をしていない片方の前脚を伸ばしながら、ゴロンと横に

なるような甘える仕草をしてきた。今、出来る精一杯のその仕草は、

本当に愛らしいものだった。痛いだろうに、苦しいだろうに、

少しでも元気な姿を見せて安心させようと気遣ってくれている、その

小さな体、それとも、私を見捨てないでと必死に訴えているのだろうか、

何とも言えない気持ちが込み上げて来て、涙が零れ落ちそうになるのを

グッとこらえながら、来れなくてごめんね、心細かったね、大丈夫だから、

見捨てたりしないからね、と、触れるか触れないかの、そよ風のように

やさしくやさしく、負傷した箇所を刺激しないように注意しながら

包み込む様に撫でてあげた。痛みは代わってあげられないけれど

せめて、少しでも苦痛が和らぐようにと祈りながらエールを送っていた。

ふと我に返るまでの1時間、気付いたらずっとそうしていた。

 

どうか、この小さな命をお守りください。

どうか、笑顔を取り戻させてください。

どうか、これから穏やかな気持ちで過ごさせてあげてください。

其の為に、私も努力しようと誓った。

 

☆本日の一言☆ 守ると決めると人は強くなれる