キバタンのいる風景
「バイバーイ。バイバーーーイ。」
何処からか響いてくる、元気の良い男子小学生のような声。それは
友と暫し別れる際の一日の締めくくりとして発せられる、悲壮感を
伴わない、無邪気で明るい声だった。人が見当たらないその場所で
自分の存在を誇示しているのか、あるいは閉館時間を意識し一日の
出来事を思い出して発しているのかは不明であったが、オウムは
「誰か」に喋っているかのように絶え間なく声を発していた。
旅先で入った植物園に併設している鳥たちのブースに、その鳥はいた。
その声の大きさに半ば圧倒され引っ張られるようにして、私は自然と
その鳥の前に立っていた。ほどなくして、そのオウムの独り言は消えた。
私の姿を確認し観察し終えた途端に、「会いたかったの〜!」と言わん
ばかりの勢いで端から端へと駆け寄って来た。その姿に、また面食らい
つつも、私の心も連鎖反応していた。「なんて、かわいいの!」と。
大型のオウムの一種「キバタン」とガラス越しに会った瞬間は
少しだけ乙女チックな胸キュンが入っていた。
「あなた、ダァレ?」と言いたげに首を傾げてくる、キバタン。
あれほど大声を出していたのに、もはや無言で見つめて来る。
全身を使ってアピールをしてくる様子は、暇つぶしなのか
はたまた気に入ってくれたのかは不明であったものの、自分に
興味関心を持ったことは、その愛らしい仕草から確かのようだった。
ガラス越しに、何とか私に触れようと試みていた、キバタン。
目の前に手を差し出してみる。すぐに片足を持ち上げて手の
高さまで持ってきた。その瞬間、一瞬心が通ったような気がした。
安全の為とはいえ、もどかしい距離感に切なさが漂う。そして
もっとキバタンのことが知りたいと思ったが、日が沈みかけ
刻々と迫る列車の発車時刻を考えての自由に操れない時間を
前にして、今度は私が静かに声を発していた。
「バイバイ、またね!」
キバタンは表情こそ変わらないままだったが
決して「バイバイ」とは返してこなかった。
その代わりに、ジッと目を覗き込んできた。
「ありがとう。」
出会いの一時が暖かな夕焼け色に染まった。
☆本日の一言☆旅の一期一会は心に宿る風景に