花鳥風月

〜日々を彩る風鈴花の365日〜

電話が鳴る 雪が舞う

昨日の日中、ペットクリニックから携帯へ電話が入っていた。

自宅→母の携帯→私の携帯の順番で登録しているが

私の方にもかかってくるところを見ると緊急性がある

ということ。無言の圧迫感が胸にくる。不安が広がる。

猫の「ミィたん」の身に何かあったのは間違いない。

最悪の状況を想定しながらも打ち消す様に、努めて

明るく折り返した。「突然で申し訳ないのですが、

午後から緊急の手術になりました」とのことだった。

腹部に撒かれた包帯に血が滲み、つらそうに呼吸を

していた顔が脳裏に浮かぶ。傷口が開き、他の部位

にも問題が見られるとのこと。受話器から聞こえて

くる先生の説明を理解出来ないほど放心していた。

生きていることには、ひとまずホッとしたけれど

傷の大きさを思うと、とてもいたたまれない。

手術の前に、一目面会しておこうと準備を急いだ。

「ミィたん!」叫びたい気持ちを押さえて駆けつけた。

着いた頃には手術台に寝かされていたが、先生の

ご配慮で、いつものケージの中での面会となった。

手術前が分かるのだろう。触ろうと手を出すと

ビクッと体を震わせて、怯えた目を見せた。

少しでも安心させたかったけれど、何も出来ない。

「ミィたん、大丈夫だからね」と言うのが精一杯で、

この小さな体で、こんなに痛々しい姿になって

痛みと苦しみと闘いながら耐えていると思うと

どんなにこらえても、もうこらえきれなくなって

とうとう、ミィたんの前で涙が溢れ出てしまった。

堰を切った様に流れ落ちる大粒の涙。

 元気づけようとしていた自分が、ミィたんの前で

泣いてしまうとは情けなかった。こんなにも愛しいのに

自分は助けることすら出来ずに、ただ泣くだけなんて。

いたたまれなくなって、深々とお辞儀をし

その場から逃げるように外へと飛び出した。

空からは、やさしく、雪が舞ってきていた。

冷たい涙と同じ冷たい雨ではなかったところに

せめてもの救いを見出しながら雪を眺めていた。

流した涙とともに潔く消えていく結晶たち。

儚い命だからこそ美しいのだと思いながら

この悲しみも辛さも幻想であり夢なのだと

思わせるような、そんな雪に感じられた。

春のあたたかい日はもうすぐそこ、

ミィたん、沢山日向ぼっこしようね、と

写真の画面を撫でながら話しかけた。