箱根サイクリング その四 〜恐怖の先〜
目指す最初の目的地は、箱根九頭龍神社(本宮)である。
毎月13日の月次祭。6月13日の大祭ともなれば、近年
全国各地から「良縁」を求めて大勢の参拝客で賑わうことで
有名であり、その日だけの特別の参拝船も出航している。
本年6月(2009年)は、2,000人を超える人出だったと記憶している。
その九頭龍神社がある樹木園へと続く道の手前で、早くも言い知れぬ
寒気が背中に走っていた。怖いと感じた時には、もはや周囲を見渡す
ことも出来ず、とにかく、そのじっとりとした重苦しい「空気」から
逃れたくて必死でペダルを踏んでいた。
ああ、そういえば、ここは箱根だったと思い出す。
今となっては昔のことであるが、箱根の中でも、かなり歴史のある
古い旅館に家族で宿泊した際の出来事である。夜、畳の上に敷かれた
布団に入り、さぁ眠りにつこうとした時分にゾクゾクし始めた。
夢か現か、眼前には馬に乗った鎧兜姿の武士たちが大挙してきていた。
彼らは口々に「私の話を聴いてくれ」と言い、眠ろうとしているのに
眠らせてくれない。髪を振り乱して向かってくる、その姿の雰囲気たるや
言葉として表現するには、あまりに恐ろしいものがあった。
「怖い!!」と叫び、家族を起こしたのは言うまでもない。
今回感じた寒気も、其の時の空気にそっくりであった。
両側からウワーッと幾つもの影が覆い被さってくるようなイメージ
とでも言おうか。とにかく全身に鳥肌が立った。
やはり心の中で「怖い!」と叫び、一気に駆け抜けていた。
その木立を抜けると、不思議と身体の隅々まで光が射し込むような
安堵感が広がり、生き返った気がした。
目指す「九頭龍神社」は、もう目前に迫っていた。